宿泊施設に求められる新しい建築と経営の潮流
- 圭孝 木村
- 10月12日
- 読了時間: 3分
ここ数年で、旅館やホテルを取り巻く状況は大きく変わりました。観光需要の回復やインバウンドの増加は追い風ですが、その一方で人手不足や光熱費の高騰といった課題がオーナーの経営を圧迫しています。こうした時代に求められるのは、「建築」と「経営」を別々に考えるのではなく、両方を結びつけて発想することです。
設計のポイント:人手不足・快適性・環境対応
まず大きな課題は人手不足です。スタッフが少なくてもスムーズに回る建物づくりが欠かせません。たとえば各階にリネン庫を配置すれば、清掃スタッフが階を行き来する手間が減り、1人あたりの作業効率が上がります。フロントにセルフチェックイン機を設ける際も、導線を考えて配置すればスタッフの負担が軽減されます。
次に重要なのは快適性です。豪華さや広さよりも、「静かで落ち着ける」「居心地が良い」と感じてもらえることが満足度を左右します。壁や床の遮音性能を高める、照明を調光できるようにする、空調を客室ごとに細かく制御できるようにする──こうした工夫が「また泊まりたい」という声につながります。
さらに欠かせないのが環境対応です。断熱性能を高めれば冷暖房費が下がり、LED照明や省エネ設備は長期的に経費を抑えます。「環境に配慮している宿」というブランドイメージは、個人客だけでなく企業の団体利用にも効果的です。
経営のポイント:収益効率と投資判断
経営の面で大切なのは、収益をどう効率よく上げるかという視点です。従来は「客室あたり売上(RevPAR)」が重視されてきましたが、今は「1㎡あたりの売上」や「スタッフ1人あたりの売上」といった指標も有効です。なぜなら、面積配分やスタッフ動線などの設計次第で、この効率が大きく変わるからです。
また、投資と運営コストのバランスを考えることも重要です。大浴場は強い集客力を持ちますが、水道・光熱費や清掃コストが年間で数百万円規模になるケースもあります。初期投資だけで判断するのではなく、10年、15年といったライフサイクルコストを見据えて「何年で回収できるのか」をシミュレーションすることが求められます。
さらに、デザイン投資は広告にもなるという考え方も大切です。ロビーやエントランスに特徴的なデザインを施せば、宿泊客が自然と写真を撮り、SNSで発信してくれます。これは広告費をかけずに新しいお客様を呼び込む効果を持ちます。建築そのものが集客の武器になるのです。
建築と経営をつなげる発想
建築の工夫は、見た目を良くするだけではありません。清掃効率を上げれば人件費が下がり、断熱性能を高めれば光熱費が減り、快適性を高めればリピート率が上がります。つまり、設計の工夫はすべて「経営数字」に反映されるのです。
これからの宿づくりに必要なのは、美しさと同時に収益性や持続可能性を実現すること。建築と経営をつなげて考えることで、宿は「泊まる場所」から「利益を生む仕組み」へと進化していきます。ザインと同時に、収益性と持続可能性を両立させること。建築と経営を両輪として回すことで、宿は単なる建物ではなく「利益を生む仕組み」へと進化するのです。

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